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—60歳以上も乳がん検診を!—

60歳以上も乳がん検診を!

がん(悪性腫瘍)が脳卒中、心臓病と入れ替わり死因の一位になってから久しく、最近では、2人に1人ががんに罹る可能性がある、と言われています。これに対して国は2007年にがんによる死亡率を10年で20%引き下げるために、がん検診の受診率を5年以内に50%に増やす対策をたてました(がん対策推進基本計画)。残念ながら未だ目標には届いていません。

女性の悪性腫瘍の中で乳がんは最も頻度が多く、全体の20%を占めます。グラフ①に見るように、年々乳がんの罹患率と死亡率はともに増えています。罹患率が増えている原因として、出産の減少、高齢化、食事内容の変化、などが挙げられています。同時に死亡率も増加していますが、1990年初めより欧米先進国では乳がん死亡率の減少がみられています。先進諸国で乳がんの死亡率が減ったのは、マンモグラフィ検診が普及し早期に乳がん見つかるようになったこと、ホルモン剤や抗がん剤などの治療薬が進歩したことが大きく貢献していると考えられています。

グラフ① 乳がんの罹患率と死亡率の推移(対人口10万人)
罹患率(赤)の増加とともに死亡率(青)が増加している

触診のみの検診では、乳がんの死亡率を下げることはできません。2004年よりマンモグラフィ(乳房エックス線撮影)と触診による乳がん検診が本格的に導入されました。しかし、乳がん検診の受診率は、30%台に止まっています。40歳代の受診率は50%に近い値ですが、60歳以降になると検診受診率は低下しています(グラフ②)。

グラフ② 年齢別の乳がん受診率

60歳以降では乳がんに罹るリスクは減るのでしょうか?グラフ③にみるように60歳以降でも40歳代と同様な罹患率です。高齢化がすすむ日本では人口が逆ピラミッド型になり60歳以上が人口の1/3を占めています。したがって、罹患率は同率であっても乳がん患者数全体に対する60歳以上の割合は、年々増加してきており約50%にまで達しています(グラフ④)。

グラフ③ 乳がんの推定罹患率(対人口10万人/2008)
グラフ④ 60歳以上の乳がんの頻度
出典:国立がん研究センターがん対策情報センター

60歳以上が、乳がん患者の約半数を占めるのになぜ検診の受診率は低いのでしょうか。乳がんは自分の年齢では危険性は少ないと感じているのでしょうか。自治体から配布される乳がん検診のクーポン券は40歳から60歳までですが、60歳以降もマンモグラフィ検診が必要です。自分の命と乳房は検診でまもる必要があります。

(以上は、2012年11月の日本乳癌検診学会シンポジウム<日本のすみずみまで乳癌検診を>の講演および日本乳癌検診学会誌第22巻1号:乳癌検診と日本の高齢化、の要約です。)

更新日:
2013年11月1日
著者:
明治安田新宿健診センター 所長 内田 賢
元記事名:
医師のコラム
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